送電網の「面白い場所」を、地図の一部とともに紹介するページです。
試験運用中のコーナーです。ゆくゆくは、みなさんからの投稿で見どころを増やしていく形にできたらと考えています。 「ここが面白い」という場所があれば、メニューのフィードバック(Discord)からどうぞ。
地図上でも見られます: 地図のメニュー(☰)で「見どころを表示」をオンにすると 吹き出し(💬)が現れ、クリックでその場所へ移動して解説が表示されます。
路線ツアー: 1本の路線を起点から終点までたどる読み物です。 第1弾 新所沢線 — 外輪系統・西の弧をゆく(スクロールすると地図が旅をします)。 ツアー一覧もどうぞ。
🗺 この見どころを地図で開く (周辺路線のハイライトと解説カード付きで表示されます)
日高市の住宅地の縁にある中東京変電所。一見ふつうの変電所ですが、 送電線を電圧色でたどると、性格のまったく違う3つの系統がここで出会っていることが分かります。
源流は約200km先、新潟県の信濃川に鉄道省が建設した信濃川発電所です。 国鉄を経て JR東日本が継承し、いまも JR の消費電力の約4分の1をまかなうこの自営水力は、 実は発電所ごとに東京への送り方が違います。
古参の千手発電所(昭和6年着工・昭和14年運転開始)と小千谷発電所(昭和26年)の電力は、 JR 自前の 154kV 送電線で三国山脈の清水峠を越え、深谷市の岡部交流変電所を経て 三鷹の武蔵境交流変電所へ。この一帯を貫く茶色の「岡部境線」がその幹線です。
一方、最も新しい小千谷第二発電所(平成2年・275kV)の電力は自営線では運ばず、 東京電力の 275kV 系統に預けて(託送)、ここ中東京変電所まで送ってもらいます。 そして 154kV に降圧し、短い分岐「中東京信濃川線」で岡部境線に合流させて武蔵境へ — つまりこの分岐は、予備ではなく託送した電力をふだんから受け取っている窓口(電力振替の受け渡し点)で、 この変電所は鉄道電力と一般電力網の接点になっています。
すぐ北を横切る紫の西上武幹線は、群馬・埼玉西部を貫く 500kV の基幹送電線。 東隣の鶴ヶ島には 500kV の新所沢変電所が構え、赤い中沢線3・4号線(275kV)が 両者の間を結びます。戦後に築かれた首都圏西部の電力大動脈です。
南西へ目を移すと、黄色い 66kV の「太平洋セメント線」が、太平洋セメント埼玉工場の 構内にある太平洋セメント変電所へ一直線に延びています。セメント製造は電力多消費型産業の代表格。 特定の工場に電気を届けるためだけに引かれた専用の送電線が、地図にそのまま姿を現しています。
戦前の鉄道自営電力、戦後の 500kV 基幹系統、産業への専用供給 — 時代も役割も違う3つの送電網が、数kmの範囲に同居しているのがこの場所の面白さです。 地図を傾けて俯瞰すると、変電所を結節点に電圧色の線が集まってくる様子がよく分かります。
そんな要衝だけに、止まったときの影響は甚大です。2021年7月28日の夜には、 同じ日高市内にある東京電力の変電所で落雷が原因とみられる火災が発生し、 日高・飯能・川越市など埼玉県西部の最大約12万5千軒が停電しました。全面復旧は翌日の未明。 送電網の結節点がひとつ止まるだけで、これだけ広い範囲の暮らしが影響を受けるのです。
そして、次の時代の顔ぶれが加わろうとしています。変電所の南西約3km、上鹿山の 日野自動車工場跡地(約26万㎡)では、Amazon の大規模データセンター群(5棟)の 建設が計画されています(1棟目の完成は2032年予定)。着工はまず電力管路工事から — 大電力を求めるデータセンターにとって、500kV基幹ハブの隣は一等地なのです。 鉄道・基幹系統・工場の「3つの電力の世界」に、4つ目・クラウドの世界が加わろうとしています。
🗺 この見どころを地図で開く (西関東の500kV幹線網18路線をハイライトして表示します)
秩父山中の新秩父開閉所を入口に、首都圏500kV網の基本構造 — 「遠くの大電源(柏崎刈羽・只見川・信州の揚水群)から放射状の幹線で運び、 都心を取り囲む外輪系統に注ぎ、環の上の超高圧変電所で 275kV に降圧して 内側へ配る」— を解説します。国内唯一の1回線水平配列×2ルート形式で信州の山岳を 越えてくる安曇幹線の話も。解説の全文は地図の解説カードでどうぞ。
🗺 この見どころを地図で開く (南狭山線・新所沢線のハイライトと解説カード付きで表示されます)
狭山市で入間川を渡る赤い275kVの送電線 — 南狭山線が今回の主役です。 500kV外輪系統の新所沢変電所(鶴ヶ島市)で降圧された電力を狭山市南部の 南狭山変電所へ運び、その先は新座変電所を経て練馬や豊島など、 都心へ向かう供給ルートにつながる重要な路線です。
その南狭山線が入間川を渡る場所で、送電の歴史に残る事故が起きました。 入間基地へ帰投中の航空自衛隊 T-33A 練習機が、燃料漏れに起因するエンジンの推力低下で降下。 乗員2名(二等空佐・三等空佐)は機体の向きを住宅密集地からそらすため操縦を続けたとみられ (事故調査委員会もそう推定しています)、脱出したのは墜落のわずか数秒前でした。パラシュートが開くことはなく、2名とも殉職。 地上の民間人に死傷者はありませんでした。機体が墜ちたのは、入間川左岸のゴルフ場のコース内でした。
墜落の直前、機体は南狭山線の電線5条を切断し、併設されている日高線も停止。その瞬間、東京23区・多摩地域・ 埼玉県南部の約80万軒で電気が止まります。送電の再開まで31分、全面復旧までは3時間19分。 送電網は、1回線の故障なら並行する回線が肩代わりできるように設計されていますが、 電線5条を一度に失うこの事故は、その備えを越えるものでした。 地図の上ではただの一本の赤い線が、都心の暮らしをどれだけ支えているか — それが露わになった3時間でした。
事故の翌日、T-33A は全機が飛行停止となり、翌2000年6月に全機除籍。 殉職した2名は2階級特別昇任となりました。
地図を引いて眺めると、鶴ヶ島の新所沢変電所を出た赤い線が、入間川と狭山の市街を 斜めに横切って南狭山変電所へ向かうのが見えます。紫の500kVが山ぎわを走るのに対し、 275kVは平野をまっすぐ都心の方角へ — 電圧ごとの役割の違いが表れる区間です。 起点の新所沢変電所までの道のりは、路線ツアー 新所沢線 — 外輪系統・西の弧をゆくでたどれます。